タネのできない不思議:不稔性の話
私たちが普段何気なく目にしている、花が咲き実がなる風景。これは、植物が子孫を残すために長い年月をかけて築き上げてきた、驚くほど精巧な仕組みの結果なのです。植物の体内では、花が咲くのと同時に、子孫を残すための準備が始まっています。花の中心部をよく見ると、めしべとおしべという器官が見つかります。人間で例えるなら、おしべは男性、めしべは女性に当たります。
おしべの先端にある花粉は、風や昆虫によって運ばれ、めしべの先端にくっつきます。これを『受粉』と呼びます。受粉すると、花粉はめしべの先端から内部へと花粉管を伸ばし始めます。まるで、眠れるお姫様のもとへ王子様が向かうかのように、花粉管はめしべの奥深くにある卵細胞を目指して進んでいきます。そしてついに、花粉管が卵細胞に到達すると、『受精』が起こります。受精は、植物にとって新しい命が誕生したことを意味します。受精後、卵細胞は成長を始め、やがて種子へと変化していきます。そして、種子がやがて芽を出し、新しい世代へと命が繋がれていくのです。